大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成11年(ワ)21526号 判決

原告 株式会社インターネットイニシアティブ

右代表者代表取締役 鈴木幸一

右訴訟代理人弁護士 押切謙徳

同 芳賀淳

被告 株式会社釣研

右代表者代表取締役 田中栄一

右訴訟代理人弁護士 尾倉洋文

主文

一  被告は、原告に対し、金二九〇万三〇五四円を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言の申立

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、被告との間で、平成一〇年四月九日、IIJインターネットサービス契約約款(以下「本件約款」という。)に基づき、以下の約定で、原告がインターネット接続サービスを提供し、被告が基本料金及び専用回線使用料金からなる代金を支払うことを基本的内容とする、インターネット接続サービス契約(六四kbps・三年契約。以下「本件契約」という。)を締結した。

契約期間 三年間

右期間前の解除の場合、被告は、原告に対し、課金開始日から当該解除があった日の前日までの期間に対応する基本料金の額、当該解除があった日から当該契約期間の末日までの期間に対応する基本料金の額の一〇〇分の三〇の額及び右契約期間に対応する加入者専用回線使用料相当額を支払う(消費税を除く)。

遅延損害金 未払期間が三〇日以内の場合、未払債務の一〇〇分の二の額。未払期間が三〇日を越える場合、未払債務の一〇〇分の二の額に三一日目から三〇日までごとに(端数切捨て)一〇〇〇分の一五の額を加えた額。

(二)  平成一一年五月時点の料金は次のとおりであった。

基本料金 月額一〇万八〇〇〇円(消費税を除く)

加入者専用回線使用料 月額一一万〇七三七円(同右)

2  被告は、原告に対し、平成一一年五月一四日、同月二七日をもってする本件契約の解約を申入れ、同月二七日、本件契約は解除された。

3  よって、原告は、被告に対し、本件契約に基づき、(1) 基本料金、(2) 加入者専用回線使用料及び(3) 三年未満解除に伴う料金(<1>基本料金分、<2>加入者専用回線使用料)のうち、(3) 、<2>として二六七万五六二七円、同額に対する消費税一三万三七八一円及びこれらに対する遅延損害金のうち約定遅延損害金九万三六四六円の合計二九〇万三〇五四円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2はいずれも認める。

三  抗弁

1  約款不適用

(一) 本件約款三六条二項は、中途解約におけるインターネット接続サービス料金の額は、次の合計額とすると規定されている。

(1)  契約終了日までの基本料金

(2)  契約終了日から当初契約期間(三年)満了日までの期間に対応する基本料金の三割相当額

(3)  契約期間(三年)に対応する加入者専用回線使用料に相当する金額

(二) 原告は、被告との間の本件契約を解除した翌日である平成一一年五月二八日、訴外西日本電信電話株式会社(以下「西日本電信電話」という。)との間の専用回線使用契約を解約しており、その後本件回線の使用料金は発生していない。

(三) 前記(一)の(1) は当然のことであり、(2) は違約金の定と解されるが、(3) は本件契約が解約により終了しても原告と西日本電信電話との専用回線使用契約が存続してその使用料が発生することを前提とするものであると解されるところ、前記(二)のとおり、原告と西日本電信電話との間の専用回線使用契約は解約され、その使用料は発生していないのであるから、同条項の適用の余地はなく、被告はこれを支払う義務はない。

なお、原告の損失については前記(一)、(2) の違約金の定めによって十分補償されるところ、被告は原告に対しこれを支払済みである。

2  過失相殺類推

(一) 被告は、原告との本件契約の解消に際し、原告に対し、本件の専用回線の利用権の譲渡を申し出たが、原告はこれに応じなかった。

(二) 原告が被告の右申出を容れて専用回線利用権を被告に譲渡していれば本訴請求に至らなかった経緯があり、原告には右申出を拒む実質的な理由はなかったのであるから、信義則上、民法四一八条を類推適用して、原告の本訴請求は大幅に減額されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)及び(二)はいずれも認め、同(三)は争う。

2  抗弁2(一)は認め、同(二)は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。

理由

一  請求原因事実は全て争いがない。

二  抗弁1について

(一)  抗弁1(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  いずれも成立に争いがない甲第七ないし第九号証、第一一号証の一ないし六によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(1)  原告はプロバイダー業務を行う電気通信事業者であるところ、第一種電気通信事業者(以下「キャリア」という。)との間で専用回線を接続する場合には、以下のような設備の効率化、コスト削減の手法を取っており、顧客のサービス申込み及び解約に合わせて、新たに専用回線を設置したり、解約したりしていない。

すなわち、(ア)NTTが提供する「多重アクセス」の利用(例えば六四kbpsの専用回線を原告側のネットワークセンター側で二四本束ねて(多重化して)、一本の一・五Mbps専用回線として提供を受け、その結果ネットワーク側の施設設置負担金、DSU使用料、屋内配線使用料が軽減され、二本目以降の専用回線の基本回線使用料に対して割り引きが適用される。)、(イ)高額利用割引制度の適用(大手ユーザーとして、NTTの高額利用割引制度の提供を受け、その結果、基本回線使用料の総額に応じた割引率が適用されている。)、(ウ)回線の使い回し(顧客から解約された場合、直ちに当該顧客が使用していた加入者専用回線を解約せず、できる限り他の顧客に使い回しをし、その結果、キャリアに支払う専用回線の解約金の負担がなくなるもの)等の手法を用いており、このことで顧客に対して内容や料金が異ならない均等なサービスを提供することが可能となっている。

(2)  本件約款においては、(ア)契約の種別及び最低利用期間として、<1>長期契約(最低利用期間の定めのある契約で、契約の期間の定めのないもの。最低利用期間は一年)、<2>三年契約(契約期間を三年とするもの)、<3>短期契約(最低利用期間の定めのない契約で、契約の期間の定めのあるもの)があること(七条)、(イ)料金等の調定として、<1>長期契約がその最低利用期間が経過する前に解除された場合の料金額は、解除の前日までの期間に対応する基本料金の額、解除の日から最低利用期間の末日までの期間に対応する基本料金の額の一〇〇分の三〇の額及び最低利用期間に対応する加入者専用回線使用料に相当する額を合計した額、<2>三年契約がその期間を経過する前に解除された場合の料金額は、解除の前日までの期間に対応する基本料金の額、解除の日から契約期間(三年)の末日までの期間に対応する基本料金の額の一〇〇分の三〇の額及び契約期間(三年)に対応する加入者専用回線使用料に相当する額を合計した額とすること(三六条一項、二項)、(ウ)料金等として、品目を六四kbpsとした場合につき、<1>基本料金は、長期契約で月額一二万円、三年契約で月額一〇万八〇〇〇円、短期契約で日額三万〇八〇〇円であり、<2>加入者専用回線使用料は、長期契約及び三年契約で、専用サービスを単独で契約(三年契約の場合はその期間を三年とする契約)した場合の回線使用料に回線終端装置使用料を加算した額、短期契約で専用サービス契約を単独で随時契約または短期契約した場合の回線使用料に回線終端装置使用料を加算した額であること(別表2)が、それぞれ規定されている。

(3)  原告は、電気通信事業者として、電気通信事業法三一条の規定に基づき、本件約款を定め、郵政大臣に右約款を届け出てその認可を得ている。

(4)  原告と同様にプロバイダーとして電気通信事業を行う会社である日本電気株式会社、ジェンズ株式会社、ピーエスアイネット株式会社、株式会社ドリームトレイン、アルファ株式会社及び日本晃伸株式会社のインターネットサービス契約の約款において、契約期間ないし最低利用期間の定めのあるものについては、契約が途中解約された場合、いずれも残存期間の専用回線使用料を徴収する定めがなされている。

(三)  本件約款三六条二項は、三年契約につき、右契約期間内に契約が中途解約された場合、契約期間に対応する専用回線使用料の支払義務を定めているが、右認定の事実によれば、右規定は、契約期間を三年間と固定し中途解約の有無に拘わらず専用回線使用料を徴収する一方、契約期間を三年間とする契約の基本料を他の契約に比して低額にするものであり、このことで顧客の選択に応じて均等なサービスを提供するものであって、一定の合理性を有するものということができる。

(四)  被告は、専用回線使用料は、被告のための専用回線の使用が継続され、原告がNTTに対して右専用回線使用料の支払を継続する限りにおいて、契約の残存期間に相当する分について被告に支払義務があり、原告がNTTに対して専用回線使用料の支払をしない以上、契約の残存期間に相当する分の支払義務はないと主張する。

しかしながら、右被告の主張は、専用回線が被告のために新設され解約されること並びに三年契約の場合とその他の長期契約ないし短期契約の場合の料金について差異がないことを前提とした主張と解され、前記(二)認定の事実によればそのように言うことはできないから、被告の主張は前提を欠き、採用することができない。

三  抗弁2について

1  抗弁2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  抗弁2(二)について判断する。

確かに、前記認定の事実並びに前掲甲第七号証によれば、本件約款において、インターネット接続サービスが解除されたときは、原告は契約者に対し、当該解除により利用しないこととなった専用回線の施設設置負担金に係る権利を移転すると規定され(第一二条二項)、右規定は本件契約の内容となっていることが認められる。

しかしながら、前記認定の事実並びに前掲甲第七号証によれば、右の専用回線の権利移転につき、解除が当該契約者の責に帰すべき事由による場合はこの限りでないと規定され、右規定も本件契約の内容となっていることが認められるところ、前記一認定の事実によれば、本件契約が解除されたのは、被告の原告に対する一方的な解約申入れによるものであって、被告の責に帰すべき事由による解除であるから、被告は原告に対して契約上の義務の履行として、専用回線の権利移転を求めることはできないというべきである。

そして、前記二認定の事実によれば、本件の契約期間に対応する専用回線使用料の支払請求は、右専用回線の権利が原告から被告に譲渡されたか否かに関わりなく正当なものと解するべきである。

そうすると、被告の専用回線譲渡の申出に原告が応じなかったことが信義則に反するとの抗弁2(二)の被告の主張も、採用することができない。

四  結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用し、仮執行宣言免脱の申立についてはその必要がないものと認めこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 草野真人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!